私は旅で大型船に乗ったり、川や湖でボートを漕いだり、知人のクルーザーに乗せてもらったり、
ヨットを少し操縦させてもらったくらいで、船には全然詳しくありませんが、
先日友人の建築家に誘われて、日本では珍しい木造船を造る佐野末四郎氏に会ってお話を伺ってきました
(2004/2/18)
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木造船と佐野末四郎氏
東京マリーナに着くと
プラスティックの船がたくさんある中
明らかに他とは違う木造の船が陸にあげられていました
船を眺めていると恰好いいお兄さんといった感じの人が現れ
「どうせなら中でお話しましょう」と
完成間近だというその美しいヨットに脚立をかけて昇っていきました
(ちなみに珍しいくらい愛想笑いをしない人です)
あとについて昇ってデッキに上がると結構な高さです
船内に案内され独特な雨仕舞と開き勝手をした入口から降りると
そこにはマホガニーに包まれたとても上質な空間が広がっていました
ソファーに座ってコーヒーを煎れて戴き
いろいろとお話を伺いましたが
あらゆるところが本物の材料による手作りで出来ていて
とても密度が高く強いエネルギーに包まれている感じがします
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佐野末四郎氏の略歴
船の中では木造船の特徴などと共に
生い立ちから今までのことをずっと話していただきました
彼は「佐野造船」という8代続く東京の船屋さんの3男として生まれました
日本は昔「和船」と呼ばれる木造船を造ってきましたが
時代の流れとともに新しい素材の船に変わっていき
佐野造船も新素材の船を造るようになっていました
子供の頃から小船を作っては東京湾へ釣りに出ていた末四郎氏は
その頃ほとんど絶滅していた和船の技術を活かして
外洋に出られる木造ヨットを造りたいと思い
和船の技術を知るお父さんに協力してもらいながら中学生の時に設計をはじめ
高校生の時に自分の力で木造船を一艇造ってしまいます
そのヨットを日本の雑誌に応募したところ
高校生が造った船と相手にされなかったようですが
アメリカの有名な雑誌「WoodenBoat」に応募したところ
編集長が突然訪れてきて高い評価を得ることとなりました
その後、工学院の造船科を出て外洋ヨットを数艇設計・建造したのち
オランダのハイスマン王立造船所へ留学
見栄えのいい内装や家具のデザインなどを学んだのちに帰国
実家の造船所は兄弟の方が継いでいて家を出るはめになり
やる予定だった船の受注もバブルが弾けてキャンセルに
船造りの道具も居場所も失ってしまい
肉体労働をしたりアルバイトで家具を作って売り歩いたり
NHKアートに入社しながら生活し
日本の木造船の技術を絶やさないために
再び船を造るチャンスを伺っていました
そしてNHKアートを退社し「SANO YACHT BUILDING」を設立
現在は国内外のボートショーに出品しながら
セーリングカヌーの製作
個人からヨットを受注製作
マホガニー製ボートを製作
そして今回お話を聞いているヨットの製作
「船の科学館」などで船造りの講習会や公演も開催されています
佐野さんのHPに詳しく書かれているのでご覧ください
http://homepage2.nifty.com/SANOMAGIC/
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造船技術など
これもホームページに詳しく書かれていますが
佐野さんの木造船にはアテズリという細かい鋸目を入れて
木の表面積をあげたり繊維を毛羽立たせたりする手法や
マキハダというヒノキやマキの皮の繊維を隙間に詰める手法など
日本の桶や樽を作る止水技術が使われていたり
釘を使わない複雑な組手が多用されているところは江戸指物のようで
見た目はヨーロッパの船ですが
技は日本の伝統工芸の塊のような船です
また木の特性や木目の流れを十分に考慮した無駄のない構造で
建物でいう躯体とそれに付ける内装や家具という考えではなく
内装や家具自体も構造体となり構造計算に入れられているため
とても合理的で驚くほど軽く出来ているようです
使う木材はホンジュラスマホガニーや
もみじの家や月島、参宮橋の家でも使われたミャンマー産のチーク
どちらもとても高価で貴重な木材ですが
なんと引出しの中の板まで無垢で出来ています
仕上に使う塗料は各国から取り寄せて実験中
建築の世界では「フッ素」入りの塗料が長持ちするとされていますが
(これも製品によってフッ素の含有量が違うので多く入っているもの)
実際のところはオランダ製の上質なウレタンを使った
船舶用のニスが長持ちしているそうです
それを20回も塗るとのこと
建築だと3回塗りでも嫌な顔をする職人がいますが
見習ってもらいたいものです
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ランチボートとプリティエンジェル号
お話を伺ったあと
マリーナに浮いている佐野さんの他の船も見せて頂きました
一つはランチボート(モーターボート)
とても美しく製作中のヨットよりいい色になっていました
マホガニーはタンニンでどんどん赤味を増していくそうです
船内もとても美しくお酒が美味しく飲めそうな空間
ヨットが出来なくてもこれなら動かせそう
もう一つは高校生の時に造ったというプリティエンジェル号
シートがかけられていてあまりよくは見られませんでしたが
メンテナンスしているとはいえ
30年近くも海に浮いて綺麗な状態なんてすごいです
木造建築もいい材料をいい技術で造れば千年以上持っていますが
一般的な建物は30年経ったら結構ボロボロではないでしょうか
船の先端にはその当時チークから彫ったという女神像がいました
彼女がプリティエンジェルさんか
女神像と佐野末四郎氏
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日本のヨット事情
何故こういった木造船を注文する人が少ないのかというと
こういうものがあるという認識が我々にないのが大きいと思ますが
日本製のヨットがいいわけがないという思い込みもあるようです
また日本人の場合は純粋に船を楽しむというよりは
「お金持ちの象徴」として持つことが主な目的のようで
それには「フランス製」の方が響きがいいそうです
しかし実際のところ「フランス製」の船は簡素に出来ていて
他の外国のいい船と比べてもあまり質の高い物ではないようです
佐野さんの船がどれほど速くて操船しやすいのか私には分かりませんが
少なくとも他の船よりは遥かに美しくて手間をかけて造られています
イメージが大切なのも分かりますが
なんだか貧しい話ですね
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佐野さんの印象
彼からは強いエネルギーがひしひしと伝わってきて
いい加減なものはすぐに斬られてしまいそうです
妥協せずいい物を追求している強い精神力の現れなのでしょう
思想がしっかりしているし、技術も材料もしっかりしている
また最新の技術もどんどん試していて
その上で自然素材の木材の特性を十分に活かして船を造る
妥協しない職人魂がそうさせているようですが
職人とか技術者とか学者とか、そういったジャンルを越えて
ただひたすら完成度を追い求めているパイオニアのような気がします
ホームページに印象深い記述がありました
職人仕事の完成度を高めるのは、最終的にはその人間の精神の問題で、
いかに頑固に偏屈に、自分に妥協しないで仕事をするかってことが、
いい技術屋になるかの境目だ。
だから腕が良くたって、それだけでは一流でない。
妥協しないかどうかこそが一流の技術屋かどうかの境目だ。
ほんとに思うけど、人間、死んでも金を持っていけない。
一通り家族が食って行けて、そこそこの生活ができればそれでいいじゃないか。
自分の永遠をどこにおくか。
技術は伝えていけば永遠でしょう。
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船道楽
日本は大平洋に突き出た海に囲まれている国
江戸はもともと水路が巡らされた水の都
他の各都市も水と大いに関係があると思います
私も昔からの東京の家系に育ちましたが
昔の人はもっと水を身近に感じ 舟遊びを粋に楽しんでいたようです
船としての性能はとても優れていて 芸術品のようにとても美しく
FRPの船と比べてもそれほど高い物ではなく
メンテナンスも木造船だからといっても
いい材料でしっかり造られているため 特に手間がかかることもないようです
そこら辺の高級車と同じような値段で手に入ります
一家に一艇とはいいませんが
とても美しく素晴らしい船なので船道楽というのは如何でしょうか?
ヨーロッパの人達みたいに長期の休みをとって
船で自炊しながら旅をするっていうのもとても優雅そうですね
私に船の趣味はありませんでしたが
状況が整えば欲しいと思ってしまいました
SANOMAGIC 佐野末四郎
東京都江東区新木場1-6-12
TEL&FAX 03-5569-6567